Sugarless <リョーマサイド> 温かい感触、そして体温…。 目の前には優しい微笑みを向けてくれる不二先輩。 そして相変わらず無表情の手塚部長。 光に続く道の途中… 後方には英二先輩が立っている。 俺は… このまま進んでいいの…? 「っ!…朝、か…。」 目覚めが悪い…。凄く嫌な夢を見てしまった。 俺が不二先輩と手塚部長のもとに行くと… 後ろに居た英二先輩が寂しそうに去って行く夢…。 これは何の前兆? これは…正夢なのかな? 「起きたの?越前…。」 隣には不二先輩が…。 えっ…? 「何で不二先輩が此処で寝てるの!?」 「だって…此処、僕の家だよ?」 不二先輩は苦笑しながら答えた。 …何で?昨夜の記憶がない… 「俺…どうして…?」 「忘れちゃったの…?昨夜はあんなに激しく抱き合ったのに…。」 「えぇっ?!」 う、嘘…?まさか…。 「クスクス…冗談だよ。…昨日の事は覚えてるかな?あの後、急に意識失っちゃったからさ…。」 此処に連れて来ちゃったvと嬉しそうに話す先輩。 …良かった、何にもなかったみたいだ… 「スイマセン…迷惑かけたみたいで…。」 「構わないよ。越前の寝顔、堪能させてもらったからvvv」 「…もう…。」 こんなふざけた台詞でも、優しさを感じさせてくれる。 …俺が、なるべく昨日の事を思い出さないようにしてくれてるんだ… 「…そろそろ用意しようか?朝練に遅刻しちゃうね。」 「あ、本当だ。じゃ、早く着替えよう?」 何故か着替えさせられてる服…。 聞くのが怖いから、質問しないでおこうかな…。 「そうだねv朝食も、もう出来てるはずだよ。」 二人で着替えして、朝食を食べて…。 もし…不二先輩と暮らしたらこんな感じなのかな?なんて考えてしまった。 それぐらい安心出来て、そして楽しい存在だから… 不二先輩の事…確かに好き… でも、それが尊敬としてなのか…『恋』なのかは判断出来ない…。 「越前?どうしたの?」 登校の途中、黙り込んだ俺に心配そうに問い掛ける先輩。 …このままじゃ、先輩の優しさを利用してしまいそうで怖い… だから… 「先輩…告白の返事、もう少し待ってもらえます…?」 「いいよ…。君がちゃんと、誰が好きなのか判る時まで、待ってる。」 御免なさい…。俺を許して…。 優しい先輩の気持ちを、踏みにじる真似だけはしたくない。 だから…俺が判断出来る時まで…。 …英二先輩、今日の練習来なかったんだ… どうしたんだろ…? 「今日の練習はこれで終了だ!…不二、それと越前の二人は残ってくれ。」 俺と不二先輩…? 「さ、行こうか。」 「…うぃーす。」 「来たか、二人とも。…越前、実は俺と不二に海外留学の話がきているんだ。」 え…?今、なんて? 「この事はお前以外全ての部員が知っている。…そして、俺と不二は行く事に同意した。」 「…何で俺には言わなかったんすか?」 「…最近調子が悪いようだったからな…。あまり不安にさせない方が良いと判断した。」 「…それでね、越前。君を連れて行く事を僕が推薦したんだ。」 突然の状況に混乱する。 …俺が留学? 「そ、そんな事言われても…いつなの?発つ日は…。」 「3日後だよ。ゴメンネ…急な話で。君のご両親には話してあるんだ。」 「後はお前の意志だけだ…。嫌なら無理に行く事はない。…だが」 「君は日本に居るには勿体無い実力がある。それに…青学には居たくないだろ?」 あぁ…英二先輩の事か。 確かに一緒に居るのは辛い…。 でも…いざ離れる事になると… 決心がつかないよ。 「俺…どうすればいいのか……。」 「…一生を決めるとも言える選択だ。出発の日までよく考えろ。部活も出なくていい。」 「ちゃんと答えを出すんだよ…?越前が後悔する姿は見たくないから…。」 不二先輩…瞳が悲しんでるよ? 俺が日本に居る選択肢を選んだら…先輩とは会えなくなるんだもんね。 …俺も、悲しい…な……。 「…分かったっす。3日後までには答えを出します。」 先輩達にそう言い残して、部室を出る。 凄く、気分が悪い。 俺以外の部員…って事は英二先輩も知ってるんだよね…。 「俺…何考えてるんだろ…?」 先輩が知っていようが知らないだろうが、関係ないじゃないか…。 だって、俺達の間に…"関係″は無くなってしまったのだから。 「どうしたらいいのかな?このまま海外に行ってもいいけど…。」 夢が、気になる。 不二先輩と手塚部長のもとに歩み寄った時、悲しそうに去る英二先輩。 …これは、この事を予知しているの…? 「まさか、ね…。たかが夢じゃん…。」 でも、あの夢とは逆に… 英二先輩のもとに歩んだら、どう結果は変わったのだろう? 不二先輩と一緒に居たい…。 英二先輩に追ってきてもらいたい…。 二つの無理な願いを持つ俺は、とても我侭だ。 「…どちらかを断ち切らなきゃいけない、か…」 複雑に入り組む人間関係の道。 その先にある未来は、俺に光をもたらすの? 「でも…一番悪いのは俺だから。」 英二先輩を信じきる事が出来ず、不二先輩に逃げた俺。 不二先輩の優しさを利用して、このままでいようとする俺。 「俺が…悪い。この選べない選択肢は、その代償…?」 冷たい外気に触れながら、一息吐く。 白く、そして消えていく息は、まるで夢で見たあの人そのもの。 …俺の、後悔の夢幻… |